書名で食わず嫌いするのはもったいない
小室直樹氏と日下公人氏の対談を本にまとめたもの。
読者を選びそうなタイトルだが、読んでみると物事を多方面から見ることの重要性を教えてくれる。
かなり古い本(1995年に単行本、同書は2000年に文庫化)であり、小室直樹氏はすでに物故し、日下公人氏も高齢である。
しかし、刊行時の脂がのった両者の豊富な知識量とそこから広がる自由な発想には圧倒される。
自由なアイデアの広がりが面白い
大東亜戦争において、米国と戦わないで勝ち逃げする方法や、米国と戦う場合にはこうすればいい、というアイデアがたくさん書かれてあって勉強になった。
物事を自由に拡散的に考えると本当に面白い。
実際の戦争においては見込み違いのことが当たり前のように起きるし、それは敵味方とも同じ。
そして戦争の勝敗は、より多くの失敗をしたほうが負ける。日本はより多くの失敗をしたので負けたともいえる。
日本が失敗しないためには多くを学び、失敗の教訓を生かせる組織や社会であるべきだった。
平安時代まで遡って検証するスケールの大きさ
「こうすれば勝てた」の時間的な起点を日露戦争の戦訓だけでなく、平安時代にまでさかのぼって検証するというスケールの大きさも思考トレーニングとして楽しめた。平安時代に常備軍というのを持たなくなり、明治時代まで国軍を持たなかった日本はそもそも軍事アレルギーが根強く、戦争に向かなかったというのだ。
確かに都合の良い前提や、”こちらがこうすれば相手はこう反応するはず”という論調は多いが、兵器の性能についてのミクロな話や、組織論、国民性、国際法に対する理解といった多岐にわたる話題に対する見解には引き込まれてしまうような説得力がある。
戦争を政略のレベルまで上げてとらえるべき
重要なのは、少なくとも単純に兵器や技術の問題や、戦術の問題ではなく、戦略、政略にまでレベルを上げて戦争というものをとらえられなければ、日本が次に戦争の危機に直面した時には同じ失敗を繰り返しかねない、ということ。
戦争は勝ち方、負け方、終わらせ方が難しいと改めて感じた。
「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ(Si Vis Pacem, Para Bellum)」というラテン語の格言がある。
今の戦争がない状況において戦争のことを研究し、戦争を起こさないように備えることこそが、過去の戦争で失われていった貴重な命に報いるために必要なことだと思う。
失敗の本質と併せて読むべし
似たような本に「失敗の本質 日本軍の組織論的研究」というのがあるが、同書と併せて読むことで国家の目標達成(成功)のために、組織として為すべきことが何であるのか、を改めて深く考えることができると思う。
小室氏による中国共産党政権についての見立てはいずれ実現するのか
なお、小室直樹氏は経済学、社会学、政治学などの知見を幅広く応用してソ連の崩壊を1980年に予測して11年後にその通りとなった。同氏が持つ、物事を分析し、本質を洞察する力は本物だったと思う。
一方、中国についても同氏は中国共産党帝国が崩壊すると予測する本を出しているが、現時点では中国共産党政権は存続している。
このところ中国に対する世界の風当たりが強くなっているが、中国共産党の支配を揺るがせるのは外圧ではなく、内部の矛盾であると思う。
そういう意味では小室氏の予測はいまだ実現していない予言であると考える。